
ダスティン・スラック医師は、メーン州にいくつかのオフィスを持つ統合医療クリニック、Integr8 Health の創始者でありディレクターです。また、患者にさまざまな情報を提供する無料のウェブサイト Healer.com には、彼が作った教育用の素材があります。この記事は、スラック医師がメーン州ポートランドで最近行った講演を元にしています。その中で彼は、アメリカで圧倒的な広がりを見せるオピオイドの乱用と、現在あまり顧みられていないオピオイド依存症の治療方法について語っています——医療大麻です。
スラック医師:アメリカは今、オピオイド依存症が蔓延し、危機的な状況です。その規模は、毎日 44人が処方されたオピオイド鎮痛薬の過剰摂取で亡くなっているほどです。ヘロインの過剰摂取死を加えれば、その数は一日 78人になります。またアメリカでは毎日 7,000人近い人が、処方されたオピオイド薬の誤用によって緊急治療室に運び込まれます。
2010年には、12歳以上の人の 20人に一人が、医療以外の目的で使っているか、あるいは処方された以外の方法でオピオイド薬を使った経験がありました。1999年から 2000年の間に処方オピオイド薬の売り上げは4倍になり、それとともにオピオイド薬の過剰摂取死も増えました。2010年に処方されたオピオイド薬は、5ミリグラムのヒドロコロンをアメリカ中の成人すべてが4時間おきに1ヶ月間摂り続けられるほどの量でした。
その後、問題はさらに悪化しています。現在では、オピオイド薬の処方箋の3件に1件は乱用されているのです。オピオイドの乱用がもたらす経済的な損失は年間 560億ドルと推定されており、ベビーブーマーの世代は、ミレニアル世代の4倍の確率でオピオイドを乱用しています。地理的に見ると、オピオイド依存症問題が最もひどいのはアメリカ南部です。ただしメーン州も、オピオイドが処方される数では引けを取りません。
アメリカの人口は世界の総人口の 5% にすぎませんが、世界のオピオイド薬の 80% はアメリカ人が消費しています。アメリカ人は他のどんな国の人たちよりもたくさんのオピオイドを使っているのです——そのせいで、術後の痛みや終末期医療といった大事な目的のためのオピオイド薬が手に入らない国があるほどです。開発途上国の中には、疼痛管理のための鎮痛薬が手に入りにくいところもあります——私たちがみんな使ってしまうからです。
アメリカでは、オピオイド薬を使い始めた最初の年に 30日以上摂取した人の 50% 近くが、3年あるいはそれ以上にわたってオピオイド薬を使い続けます。そのうち半数は短時間作用性オピオイドで、大手製薬企業によれば、依存症と乱用につながりやすいのがこのタイプです。アメリカでは患者の 60% 近くが、一緒に摂るとオピオイドの危険性がより高まるとされる他の薬とオピオイドを併用しており、過剰摂取死がいっそう起こりやすくなっています。
医師のジレンマ
実はアメリカでは、処方されるオピオイドの乱用と依存症はヘロイン依存症よりもずっと大きな問題です。たとえば 2014年には、処方されたオピオイド薬の過剰摂取で死亡した人は 19,000人ほどだったの対し、ヘロインの過剰摂取死は 11,000人でした。そしてこれらのヘロイン使用者は、初めは処方されたオピオイドを使っていたのです。
その年、私がクリニックを経営しているメーン州では、薬物過剰摂取死の 69% は処方されたオピオイドによるものでした。メーン州は、長時間作用型のオピオイドの処方率が全国平均の2倍以上です。長時間作用型オピオイドの一人あたりの処方量はメーン州が一番多いのです。
これは全国的な問題です。アメリカのヘロインユーザーの 80% 近くが、ヘロインを使い始める以前は処方オピオイドを使っていたと言っています。そして、ヘロインユーザーの 45% が現在、処方オピオイドの依存症に罹っています。
慢性疼痛患者が医師の目の前にいて、「痛みがひどくなっています。オピオイド薬は効きません。もっと用量を増やしてください。そうでないと仕事にも行けないし、家族も養えません。人として機能できないんです」と言われたら、医師がノーと言うのは困難です——他には治療に使えるツールがないのですから。
実は、医療大麻が合法である州では、医師にはオピオイド薬とは別の治療の選択肢があるのですが、多くの医師はそのことを知りません。私は医師として慢性疼痛の患者さんをたくさん診ており、他の医師の方々と同様、その方たちを助けたいと思っています。そしてありがたいことに私にはオピオイド以外の方法があるのです。安全で、慢性疼痛の治療に効果があることがわかっている選択肢です。
オピオイドに大麻を加えることで、オピオイド薬はより安全になります。オピオイドに対する耐性がつき、用量の増量が必要になるのを大麻が防ぐのです。また大麻はオピオイドの離脱症状の治療にも役立ちます。さらに、オピオイドの依存症あるいは常習者を対象としたハームリダクションの選択肢の中で最も安全です。
大衆のためのアヘン
私たちは、大量のオピオイド薬を処方し、消費していますが、これらの処方薬は実際にはどれくらい慢性痛に効くのでしょうか? 『Annals of Internal Medicine』に 2015年に掲載されたレビュー論文には、「長期的なオピオイド薬による治療が慢性痛を改善する効果についてのエビデンスは不十分である」と書かれています。これは、3ヶ月以上にわたってオピオイド鎮痛薬を使用している成人の慢性痛患者を対象とした 34本の研究論文を分析したものです。1年間使用した後の疼痛、身体機能、生活の質に関する論文は1本もありませんでした。また、1年以上にわたってオピオイドとプラセボの効果を比較した研究も、オピオイドの使用を、オピオイド以外の治療を受けた人、またはまったく治療をしなかった人と比較した研究もありませんでした。
『Annals of Internal Medicine』の論文によれば、オピオイド鎮痛薬の長期的な使用が治療に奏効することを示すエビデンスはなく、逆に、オピオイドの長期使用には深刻な害が伴う危険性があることがわかりました。過剰摂取、骨折、心臓発作、性機能障害などです。それとは対照的に、『American Academy of Neurology』誌に 2014年に掲載された論文には、大麻草抽出物の経口摂取が、多発性硬化症に伴う神経性疼痛に奏効し、それについては最も信憑性の高いエビデンスがあると書かれています。論文の著者は特別な神経科医のグループで、彼らはエビデンスを A から D に分類し、大麻草抽出物をレベル A と査定しているのです。大麻オイルが慢性痛の治療に効果的であることを示す、科学的な無作為化比較対照試験の結果は豊富にあります。
大麻とアヘンの相乗作用
大麻とオピオイドはどのように効果を増幅させ合うのでしょうか? 臨床の現場ではどんなことが起こっており、またそれはどのように説明されるのでしょうか? オピオイド受容体とカンナビノイド受容体は、ともに脳の疼痛を感じる部位に発現しています。受容体とは鍵穴のようなものです。そして、摂取した薬——カンナビノイドまたはオピオイド——は、この受容体に結合し、細胞に作用してその生理機能を変化させます。またオピオイド受容体とカンナビノイド受容体は、依存症と行動に関連した脳の部位にも発現しています。そして二つの受容体は情報を交換し合うことがわかっています。そして、オピオイドとカンナビノイドを同時に投与すると、それぞれの効果を足し合わせた以上の高い鎮痛作用を発揮するのです。
カンナビノイドとオピオイドの併用は、相乗的に痛みを軽減させます。このことは、査読を受けた動物実験の結果や臨床データに裏付けられています。ドナルド・エイブラムス博士は、かなり高用量のオピオイド鎮痛薬を使っている入院患者 21名に、国立薬物乱用研究所から提供された THC 含有量が 3.56% の大麻を与えました。大麻の効力についてご存じの方はおわかりだと思いますが、これは非常に低い数字です。(意識して探しても、これほど効力の低い大麻は市場では見つからないだろうと思います。)患者が一日3回、大麻をベポライザーで吸ったところ、疼痛は有意に軽減され、軽減率は 27% でした。もっと優れた大麻製剤を、より適した方法で摂取したならば、2011年のエイブラムス博士による報告を上回る結果が出たかもしれません。
大麻の方が安全
大麻は慢性疼痛患者が使うオピオイドの代わりになるでしょうか? 大麻が、オピオイド薬の効果を高めることは確かです。2016年に発表されたある論文は、ミシガン州の医療大麻患者 244名を対象にしたものです。結果は、医療大麻の使用がオピオイド薬の使用量を全体として 64% 減少させたほか、他の薬の数と副作用を減少させ、生活の質が 45% 向上しました。同じ年にイスラエルで行われた調査では、オピオイドを使用している 176名の患者のうち 44% が、大麻の喫煙あるいは大麻入りクッキーを食べ始めて7ヶ月後、オピオイドによる治療を完全にやめることができました。患者には、大麻を徐々に増量するよう指示が与えられ、少量から始めて、一日の摂取量を徐々に増やしていきました。
つまり、大麻はオピオイドの代わりに使うことができるのです。では、大麻とオピオイドを併用しても安全でしょうか? さまざまな薬について、その有効量に対する致死量の比率を考えてみましょう。たとえばヘロインは、安全域 [訳注:ある薬の、治療効果を示す量と致死量の差] が非常に狭く、痛みを抑えるのに有効な用量の5倍の量を摂取すれば死亡する可能性があります。同様に、ほろ酔い加減になるお酒の 10倍の量を飲めば死んでしまいかねません。ところが大麻には、致死量というものがありません。
では、大麻とオピオイドを一緒に摂るとどうなるのでしょう? オピオイドを摂りすぎることの問題は、オピオイドが、脳内の心肺を司る部位にある受容体を刺激し、それが死に繋がりかねないということです。つまり、心拍と呼吸を制御する部分です。この部位にはカンナビノイド受容体はほとんどない一方、痛みに関連する脳の部位にはカンナビノイド受容体が多数発現していて、オピオイド受容体と相互作用があります。これが重要な点です——オピオイド薬にカンナビノイドを加えることで、安全域が拡がるのです。オピオイドの致死量には変化はありませんが、大麻がアヘンの治療効果を高めるため、有効量がぐんと下がります。ですから、はるかに安全な範囲の中でオピオイドを使えることになります。
大麻とアヘンに対する耐性の関係
有効性の保持についてはどうでしょう? オピオイドを長期的に治療に使うことの最大の問題の一つは、次第に効き目がなくなってしまうことです。患者はオピオイドに対する耐性がついて、3ヶ月から6ヶ月も経つと、医師のところに戻り、もっと欲しい、もっと必要だ、と言うのです。私はこれを、医師としての修行中、特に研修医だったときに目の当たりにしました。これはプライマリ・ケア医泣かせでした。より良い治療法がないこうした患者をどうしたらいいのでしょうか。ところがたまに、ずっと同じ用量のオピオイド薬を取り続けていて、用量を増やしてほしいと言わない患者がいました——オキシコドン5ミリグラムを一日3回、それを 10年間も続けている、というような。用量がずっと変わらないのです。不思議に思って、どうしてこの人たちはオピオイドを使っている他の患者たちと違うんだろう、と考え始めました。それで患者に尋ねたところ、その人たちは、オピオイドと大麻を併用していると言うのです。大麻がオピオイドの効果を高めるのだと。大麻のおかげで、これらの患者はオピオイドを増量する必要がなかったのです。
これもきちんと科学的な裏付けがあります。マウスを使った実験で、オピオイド受容体にモルヒネと THC の両方を投与したところ、実際にオピオイド受容体の発現が亢進したのです。モルヒネのみを投与した場合と逆の反応です。モルヒネと一緒に THC を投与すると、たとえそれが THC 単体では痛みが軽減されないほどの低用量であっても、マウスには耐性がつかず、モルヒネの鎮痛作用が保持されます。そのほんのわずかな THC でも、モルヒネの効果を高めるのに十分なのです。
ハームリダクション
どんな薬物の依存症の人でも、その薬物をきっぱり止めることは可能だ、と思いたいところですが、それは現実的ではないことは認めないわけにはいきません。自制できない人も中にはいるのです。誰もが意志の力で依存症を克服できるわけではありません。そこで、その薬物を止めることにフォーカスするのではなく、より安全な薬物を、危険な薬物の代わりに使うことがあります。これがハームリダクションです。
オピオイド依存に対して、ハームリダクションの手段として今私たちにはどんな選択肢があるでしょうか。現在、標準治療で受け入れられているハームリダクションのやり方は二つあります。一つはブプレノルフィンという薬で、オピオイド受容体をブロックするナロキソンという薬と組み合わせたものがサボキソンとして販売されています。メサドンという選択肢もありますが、メサドンがヘロインより安全かどうかは議論の分かれるところです。コクラン・レビューに 2014年に掲載されたレビュー論文では、政府に承認されたヘロインに代わる薬物の選択肢についてそれぞれの有効性を評価した結果、非合法的なオピオイドの使用を抑えるのに偽薬よりも効果があったのはブプレノルフィンを高用量で使用した場合だけで、低用量から中用量では偽薬との差はありませんでした。メサドン維持療法は、人間に対してブプレノルフィンよりも効果が勝っていました。
こうした治療が奏効する場合もありますが、それだけでは十分ではありません。それ以上の何かが必要なのです。では大麻はどうでしょうか? まず、大麻はメサドンやサボキソンよりもはるかに安全です。大麻を過剰摂取しても死ぬことはありません。メサドンもサボキソンも過剰摂取で死ぬことがありますし、特にジアゼパムやクロナゼパムなど、ベンゾジアゼピン系の薬や、その他の、心肺機能を抑制する薬物と一緒に摂ればなおさらです。
それに比べて大麻は、精神作用のあるどんな物質よりも依存症になる危険性が低く、乱用や転用の危険性も、喫煙以外の摂取方法の製品では特に低くなっています。これについては現在までに3万人年分のデータがあります。そのほとんどは、ナビキシモルスという大麻由来の舌下スプレーを使い、おもに疼痛と痙性を対象とした治療に関する無作為化比較試験から取られたものです。ナビキシモルスはすでに 27ヶ国で承認されています。この膨大なデータには、乱用や転用が起きているというエビデンスはありません。これは素晴らしいことです。しかも、大麻の使用をやめる人のほとんどは、なんら医療的な手順を踏まずにやめることができます。
命の綱
2014年、『Journal of the American Medical Association(JAMA)』に、オピオイド問題に対応するためのさまざまな介入措置によって阻止できたと思われる過剰摂取死の件数を検証する論文が掲載されました。州によっては、処方薬の監視プログラムが導入されているところがあり、医師はこのプログラムにログインして、ある患者がどんな指定物質を処方されたか、どこでいつ実際に薬を入手したか、何錠受け取ったかなどの情報を検索できるようになっています。でもこのような監視プログラムの導入は、オピオイド薬による過剰摂取死の減少にはあまり効果がありませんでした。疼痛クリニックに対する政府の監督を強めても効果はありませんでした。
ところが、医療大麻が合法化された州では、それだけで、オピオイドの過剰摂取死が平均 24.8% 減少したのです。さらに JAMA に掲載された論文によれば、医療大麻合法化後、オピオイドの過剰摂取死の数は年々減り続けました。
私のクリニックの患者の中には、オピオイド薬の用量を減らし、いずれは鎮痛薬を摂るのをやめるために大麻を併用していると言う患者がいます。同時に、残念なことですが、「疼痛クリニックの尿検査で THC が検出され、治療を断られた」あるいは「薬の処方を突然ストップされた」と言う患者もいます。
これはいったいどういうことでしょう? 理解できません。大麻が違法薬物や処方鎮痛薬の代替品として優れているということはしっかりと論文になっています。2015年にカナダで行われた、医療大麻患者 473名を対象とした調査では、87% の人が大麻を、処方薬、違法ドラッグ、アルコールなど、他の物質に代わるものとして使っていました。処方薬、アルコール、不法ドラッグの代替品として使っていると答えた人はそれぞれ、80%、51%、32% でした。そしてその理由は一貫していました——大麻の方が効果があり、副作用が少なく、依存症になる危険性が低いからです。
大麻は、ナルトレキソンによる依存症治療の効果の保持に役立つことがわかっています。ナルトレキソンはオピオイド遮断薬で、摂取した人はオピオイドを摂っても何の作用も感じないため、オピオイドの使用に対する渇望が弱まることが期待されます。2009年に行われたある研究では、時折大麻を使用する人はナルトレキソンによる治療プログラムに平均 113日参加し続けたのに対し、大麻をまったく使用しない人の参加継続日数はわずか 47日でした。また、集中的な行動療法は、大麻ユーザーには効果がありましたが大麻ユーザーでない人には効果がありませんでした。
大麻には、依存症患者が依存から回復し、依存症を過去のこととして、新しい人生を始めるのを助けるなにかがあるのです。科学文献の中には他にも、カンナビノイドが脳の可塑性を高めることを示唆するものがあります。文字通り、新しい行動、新しい思考パターンに関与する脳の部位の構造に変化を起こすのです。それこそまさに、依存症患者が悪循環から抜け出して人生に新たな一歩を踏み出すために必要なことです。
離脱症状の緩和
依存症患者が治療を続けるのを助け、オピオイドに代わるものとしてオピオイドの用量を減少させ、オピオイドの鎮痛作用を強化し、用量増加と耐性がつくのを防ぐだけでなく、大麻はまた、オピオイドの離脱症状の緩和にも役立ちます。悪心、嘔吐、下痢、腹痛、筋けいれん、不安感、苛立ち、不眠、あるいは鼻水や汗といった軽い症状も含め、これらすべての離脱症状に効果があるのです。
研修医だったときに私は、4つの処方薬のカクテルについて学びました。離脱症状が起きている患者に、筋肉弛緩剤、降圧剤、下痢止め、制吐剤をすべて一緒に投与するのですが、これらの医薬品にはそれぞれに安全性の問題があります。一方大麻は、致死量のないハーブであり、これら4つの薬の作用すべてを持ち合わせています。大麻ユーザーは、オピオイドの離脱症状が軽くなるのです。
ゲートウェイ仮説はどうなんだ、とよく訊かれます。大麻には依存性はないのか? 一つの薬物の依存症を別の薬物の依存症に置き換えているだけではないのか? というわけです。ハームリダクションについてはすでにお話ししましたので、大麻には実際にどれほどの依存性があるのかについて見てみましょう。国立薬物乱用研究所によれば、生涯に大麻の依存症になる人の割合は 9% です。これは、アルコールやアヘンをはじめ、他のどんな乱用薬物よりも低い数字です。しかもこの 9% という数字は誇張されています——裁判所の指示によって治療プログラムに参加する人たちが含まれているからです。大麻で逮捕される人の多くは大麻依存症ではありません。ただ楽しむため、あるいは医療目的で使っているのであるにもかかわらず、非合法であるがゆえに依存症治療を受ける結果になるのです。それが数字を歪めています。
たしかに、慢性的に大麻を使っている人が突然使用をやめれば離脱症状が起こります。大麻に依存する人はいるのです。大麻の離脱症状には、苛立ち、緊張、不安、怒ったり攻撃的になる、食欲低下、体重減少、落ち着きがなくなる、睡眠障害、奇妙な夢を見るなどが挙げられます。こうした症状は、慢性的に大麻を使っていた人が使用をやめた1〜2日後に現れ、最大2週間ほど続きます。ただし私の患者はみな、大麻の離脱症状は比較的軽微で、カフェインの離脱症状に似ていると言います。
『Journal of American Medical Association』誌に 2015年に掲載された論文は、非合法の大麻ではなく、実際の医療大麻についてのデータを検証しています。医療大麻に好ましくない副作用があるのは事実ですが、その症状は通常、非常に軽く、用量を調節することで緩和できます。healer.com や、医療大麻に詳しい医師ならば、患者が大麻の正しい用量を見つけるのを助けることができます。副作用ゼロで大麻を使うことは可能です。私の患者の多くが実際にそうしています。
CBDの登場
大麻の副作用、依存性と常習癖についての議論は、高 CBD の大麻の登場でがらりと変わります。大麻が禁じられてきた数十年間、大麻の育種家たちは、ハイを引き起こす THC の含有量をどんどん増やし続け、CBD の含有量は減っていきました。闇市場で売れるのは高 THC の品種だったからです。人々は、気持ちよく酔えるものを求めました。ところが近年、その状況が変化し、完全に逆になりました——深刻な症状を緩和させたい患者は、医療効果は求めますが、ハイになりたくない人、日常生活に支障が出るのが嫌な人が多いのです。
THC の姉妹であるカンナビノイド、CBD(カンナビジオール)には、高い医療効果があります。CBD は、THC の副作用を弱めると同時にその効果を高めることもわかっています。CBD が常習行為を軽減させることを示す動物実験の結果もあります——ラットに CBD を与えると、ヘロインの自己投与行動が減少したのです。
CBD は、医学界に大きな興奮と希望をもたらしていますが、医療大麻の合法化が若者に与える影響についての懸念は今もなくなりません。医療大麻や嗜好大麻が合法化されると、大麻を吸う若者が増えるのではないでしょうか? 大麻が安全なものであると認識されたら、大麻を吸い始める年齢が下がるのではないでしょうか?
この点についてはいくつかの研究があり、勇気づけられる結果が出ています。たとえば 2015年に『Lancet Psychiatry Journal』誌に掲載された論文には、「若者における前月使用率が、各州の医療大麻合法化によって増加したことを示すエビデンスは存在しない」と書かれています。また 2016年には『The International Journal of Drug Policy』誌に、「医療目的での大麻使用を認める州法の制定後に若者の大麻使用率が高まったことを示すエビデンスはない。合法化によって、意図せず大麻使用者が増えるのではないかという懸念は事実無根のように見える」と書かれた論文が掲載されています。
患者へのアンケート調査
私のクリニック、Integr8 Health は先ごろ、すべての患者およびメーリングリストに登録されている人全員を対象としたアンケート調査を行い、オピオイドを3ヶ月以上使ったことがあるか、大麻を併用したか、併用してどうだったかを尋ねました。1,000人以上から回答があり、そのうち 48% が女性でした。回答者の 70% は、過去にオピオイドを3ヶ月以上連続で使用した経験がありました。回答者の 50% はオピオイドと大麻を併用しており、そのうち 39% は大麻を使用し始めてからオピオイドを完全にやめ、73% が1年以上オピオイドの用量低下を維持していました。39% の人は、用量は減ったもののオピオイドを使い続けていました。
これはめざましい結果です。39% がオピオイド薬を完全にやめ、39% が用量を減らしているのです。また 47% の人が、痛みが 40% 以上軽減したと答えていますが、医学文献では、痛みが 40% 軽減する薬というのは非常に効果が高いものとされています。80% の回答者は身体機能が改善したと答え、87% の人が生活の質の向上を報告しています。
幸運なことに、メーン州その他医療大麻が合法化されている州の慢性疼痛患者には大麻という選択肢があります。でも、オピオイドに依存し、常習癖がついている人の中には、住んでいる州で医療大麻が合法でなかったり、医療大麻適応疾患のリストに慢性疼痛が含まれていなかったりで、合法的に大麻を使えない人も大勢います。
医療大麻が合法な州は、オピオイド依存症を、大麻による治療が認められる疾患のリストに加えるべきです。大麻の医療効果を未だ認めていない州では、オピオイド危機の深刻さと、大麻がオピオイド依存性患者の生命を救う治療法になり得ることを示す豊富な研究及び臨床データを鑑みて、法を改正すべきです。医療大麻は現在、使用が認められているとしても最後の手段ですが、本来は一次治療に使われるべきなのです。
まとめましょう。人々を死に追いやるオピオイド問題は今も拡大しています。処方されたオピオイド鎮痛薬の乱用は、実はヘロインの乱用よりも深刻で、より重大な問題なのです。そしてそれは医療施設から始まります。大麻はオピオイドに取って代わり、オピオイドの使用を減らすことができます。オピオイドと大麻を併用すれば、オピオイドはは安全域が広がります。大麻はオピオイド耐性がつくのを防ぎ、用量の増加を防ぎます。さらに、大麻はオピオイドの離脱症状をやわらげます。最後に、大麻はその他のハームリダクションの選択肢よりも安全です。
大麻とオピオイド依存症についての重要な事実
- アメリカでは、毎日 44人が処方されたオピオイド鎮痛薬の過剰摂取で死亡します。また一日 7,000人近い人が、処方されたオピオイド鎮痛薬の誤用によって緊急治療室に運び込まれます。
- 処方オピオイド薬の乱用は、実はヘロインの乱用よりも深刻です。2014年、処方オピオイド薬の過剰摂取死はおよそ 19,000件、ヘロインの過剰摂取死は 11,000件ほどでした。アメリカのヘロインユーザーの 80% が、ヘロインを使い始める前に処方オピオイド薬を使用しています。
- 大規模な無作為化比較対照試験の結果は、大麻オイルが慢性の神経性疼痛の治療に効果的であることを示しています。
- 大麻は、オピオイド薬の鎮痛作用を高めます。オピオイドとカンナビノイドを同時に投与すると、相互の効果を足し合わせた以上の高い鎮痛作用を発揮し、相乗的に痛みをやわらげます。
- 大麻は、オピオイドの安全域を広げることでオピオイドによる治療をより安全なものにし、患者が鎮痛作用を得るために必要なオピオイドの用量が少なくて済みます。
- 大麻は、オピオイドに対する耐性がつくのを防ぎ、用量の増量の必要性をなくします。
- 大麻は、悪心、嘔吐、筋けいれん、不眠など、オピオイドの離脱症状の治療に役立ちます。大麻ユーザーではオピオイドの離脱症状が軽くなります。
- 大麻は、オピオイドその他の薬物に取って代わり、薬物の使用を減少させます。多くの患者が、処方薬、違法薬物、またはアルコールの代わりに大麻を使っています。
- 医療大麻による治療は、他のハームリダクションの選択肢よりも安全です。
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参照文献
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依存症とは、たとえばオピオイドなどの薬物の使用、あるいはある特定の行動を、それが自分にとって有害なことであるにもかかわらずどうしても避けることができない状態を言います。そのうち、お酒に依存した状態をアルコール依存症といいます。